【テーマ】森が伝えてくれたこと

【講師】
森のライフガイド NPO法人 生物多様性研究所あーすわーむ 研究員
池田 雅子 氏

このように、森のことを話す機会をいただいて、ありがとうございます。
私が森林と出会ったのは、33歳の頃でした。もともと大学では国文学を先行し森林には縁もゆかりもありませんでした。就職してOLをやり結婚、子どもも授かったのですが、その頃慢性疲労症候群で倒れてしまいました。メンタルな面でも体力的にも参っていて、鬱になり、パニックなることも度々でした。
人の中に入ることが困難で、なるべく人とは接触しないようにしていました。夫が偶然渓流釣りを趣味にしていて、私も山に連れて行ってもらうようになりました。山の中で週末を過ごすうちに3年が過ぎ、森のなかで繰り広げられていることを人に伝えたいと思うように成りました。
 通常森は癒やしのイメージが強いですが、でも実はとても厳しい場所でもあります。そこで3年を送って、私の中で「何かを描きたい」という衝動が沸き起こりました。夫が36色のパステルをプレゼントしてくれ、一日一枚一日一枚と自分の中のイメージを描いていきました。そうして一年ほどしたら、通院の必要がなくなりました。 森で感じたことを表現し、それを受け止めてくれる人がいる。そうすれば、人はイキイキといきられるのではないかと直感的に思い芸術療法を学び、森を利用するのであれば森を傷つけてはいけない。と考え 森を勉強したい、と思い信州大学の先生を訪ね、森林生態学を学ぶようになりました。

人が手を入れない森は、その中で実は時間をかけながら変化していきます。東京で言えば明治神宮の森が有名ですが、あの森は明治に100年後をイメージして作ったものです。
森林生態学は「人が手を入れない森が森の力でどのように動いていくか」を研究する学問です。
日本の森林は67%
長野県は  79%
東京は   36%あります
(これは人工林と自然の森林の両方併せたものです)
日本地図を見ると日本は南北に長く、周囲を海に囲まれている、そして標高差があることから、雨が多く四季があるため多種多様な植物が生息することができます。これは地球規模で見ても大変珍しく貴重な環境です。それがこの貴重な自然環境を作ってくれています。
多様性とは、「幅広く性質の異なるものが存在すること」です。生物の多様性とは
1 いろいろな環境がある(いろいろな生態系がある)
2 いろいろな種がある
3 いろいろな遺伝子がある
ということです。
もともとある日本の植物を残していくために外来種を入れたくないのです。外来の種、外来の植物であるかどうか、庭木を見ても、どこの苗かを気にしてみて頂きたいと思います。

 「沢山の環境がある」ということを軽井沢の例でお話しますと、軽井沢のあたりは昔草原だったのが、今はカラマツ林です。でもこれは植林によってそうなりました。
この写真はアカマツ林です。
真ん中:草原を放っておくと始めにアカマツが入ってきます。そのままにしておくと低木が入り見通しが悪く林床には植物が少ない状態になります。その様な状態を好む動物もいます。この状態が進むと、倒木も見られるようになります。
右:こちらは人間が手を入れたアカマツ林です。林床に陽が入り、花が咲き蝶などの昆虫が来ます。

 森は時間をかけて変化していきます。軽井沢周辺に植林されたカラマツは建材として使用していたのではなく腐りにくいという性質を利用して土壌に打ち込み現在の鉄骨がわりとして使用していました。けれど利用されなくなり植林された森が間伐などの手入れをされなくなり今は細くて使えないカラマツが増えています。森に手入れをしなくなるともともとの植生の森に戻ろうとします。
種は土の中で待っていますので、放置するとすぐにいろんなものが生えてきて、元の植生に戻っていきます。

 極相林へ=人間が手を入れない場合森が行き着く最終のカタチ
極相林はその森の中で生まれたばかりの場所もあれば、若い場所もある、450歳という巨木もあり、朽ちていく樹もあるというように、一つの森の中で色々なタイプの森が長い時間をかけてグルグルと回転しています。

次に外来種についてですが、今アカマツ林は(マツノザイセンチュウ)という線虫により松枯れをおこしていますが、生態的には松は枯れていいのです。問題にしているのはマツノザイセンチュウが外来種ということです
ニセアカシアは北米から入ってきました。これは他の植物を枯らしながら自分の生息域を広げていくタイプです。

外来種が増える速度は速く、大変危機感を持っています。
日本は島国ですから植物は自分で入ってくるということは考えにくく種子などが付いて入ってくる、あるいは何かにくっついてくると考えられます。外来の昆虫などを駆除するために一斉消毒をするのですが、そうすると他の在来種もやられてしまい、生物多様性も低くなります。
植物のもつ成分は薬として使用できるものがあります。最近では漢方に戻ろうという動きもあります。
45億年の地球の歴史の中では、種は絶滅を繰り返しているので、絶滅自体は悪いことではなく自然の摂理だと思います。ただ、今は人間の活動により温暖化が進んでいて、100年後には平均気温が2-4℃上がり、海面が60cmから80cmあがるという報告がされています、と海抜が上がると言われ、また多様性が低下します。多様性が低下するということを車に例えるとどんどん部品が落ちていくようなものです。

 私の所属するあーすわーむでは、ニホンジカの生態系被害調査をしています。ニホンジカが増えていくと森林の更新が困難になり土砂の流出なども起こりライフラインのカットなどが起きていきます。
私たちは生物の多様性に支えられています。
森は水を供給しますが、森の植物が失われると水質も変化してきます。森は食べ物や水や生物の多様性が低下することで様々な可能性が失われていきます。それは薬や、CO2を削減というような物質的なものだけでなく心の豊かさに繋がっていくと私は考えています。
是非現場を見ていただき感じていただきたいと思います。ご案内します。実際に体験されると、ぐっと身近に感じられると思います。
ありがとうございました。

 

【講師プロフィール】
森のライフガイド、森林セラピスト、森林ガイド
・森からのメッセージをART する 工房 やく草箱 ARTist
・NPO 法人 生物多様性研究所あーすわーむ 研究員
・特別支援教育支援員
自身の体験から、森林と心と表現の関係に興味をもつ。
信州大学教育学部森林生態学研究室研究生修了。
元日本大学教授佐藤誠氏の下で芸術療法を学ぶ。