高校教師を目指して広告代理店へ

本日の講師は「特定非営利活動法人 Learning for All(LFA)」の広報・資金調達部 事業部長である石神駿一さんです。

石神さんは元々は高校教師を目指して教員免許も取得していました。でも、大学卒業後は広告大手の電通に入りました。それには訳があり、石神さんが高校、大学を通して感じていた違和感のためでした。
石神さんを含めほとんどの人が「何のために学んでいるのか」という目的が不明確なまま、どちらかと言うと「やらされ」で勉強していることに気づきました。それならば、自分は将来の生き方や仕事を示し、生徒が自分の人生をもっと積極的、自主的に考え、目的を持って学んでいける、そんなことをしてあげられる先生になろうと石神さんは考え、まず自分の人脈を広げる必要性を感じ、教師になる前に一般企業に就職しました。

電通で仕事を通して様々な人脈を広げていき、そろそろ高校教師への道にシフトしようと考えていた頃に出会ったのがLFAの代表である李 炯植さんでした。
そこで、子どもの貧困の実態とその問題解決のアプローチに対して感銘を受けた石神さんは即座に転職を決意しました。
LFAは2010年から活動し、生活保護世帯の子供たちに対して無償の学習支援をしている団体です。勉強を教えるのは大学生のボランティアで、学校の空き時間、空き教室に子供たちを集めて勉強を教えています。同時にボランティアに参加してくれる大学生を育成することで、将来の社会的なリーダーを育てています。

先進国日本の貧困の現実

LFAが課題としている子どもの貧困については、様々なメディアで取り上げられているので知られてはいますが、その実態は一般の認識とはかけ離れたものです。
日本の子どもの貧困率は13.9%であり、7人に一人は貧困です。
一般的に日本で子どもの貧困と聞いてイメージされるのは海外のストリートチルドレンやアフリカで飢餓に苦しむ子ども達であり、これら生きていくことが困難な状態のことを「絶対的貧困」と言います。
一方LFAが取り組んでいる日本において7人に一人が当てはまる貧困のことを「相対的貧困」と言います。これは世帯平均年収において相対的、その平均の半分以下で暮らしいる子ども達を指します。
では、日本の世帯平均年収はというと400万円強ということですから、年収が200万円以下、月14万円以下の収入で生活している家庭の子どもが13.9%、280万人もいるということです。学校の1クラスが35人だとすると1クラスに5人はいるということです。
さらに、これを「一人親」世帯だけで見ると50.6%、2人に一人以上が貧困状態にあります。特に母子家庭の割合が極めて高く、母子家庭の子どもの2人に一人は貧困状態にあることを示しています。

一般的にこの数字は過去と比較すると低くなってきていると思われがちですが、実はわずかながら増えてきています。
また、先進国の日本がそうであるなら、他はもっと酷いのではないかと考えられがちですが、OECD(経済居力開発機構)に加盟している先進国の貧困率の平均は13.3%で、実は日本の方が貧困率が高い。驚くことに「一人親」世帯の貧困率に至っては、OECD加盟国の平均が22.5%に対して50.6%ですから、日本は他の国に比べて格段に貧困率が高いというのが現実です。
このことから、日本は先進国ではあるものの、経済的格差が最も激しい国であるということがわかります。そして、このことから引き起こされるのが子どもの教育格差の問題です。

経済的格差と教育格差

親の年収と子供の学力には相関関係があり、東大などのトップクラスの大学に通う学生の家庭の年収は高く、子どもに対して教育やその他の機会を十分与えられるだけの経済的体力を持っている家庭だということです。
これは学力だけに留まらず、習い事やスポーツなどやりたいことがやれるということは、その体験を通して得られる自律性など子どもの発達そのものにも影響を及ぼします。
さらに、学歴と生涯年収の比較をすると、大卒と中卒では男子で8,000万円、女子で1億円もの差が出ています。このことからわかるのは、貧しい家庭で育った子どもは十分な教育を受けられないことから学力低下を招き、結果的に社会に出てからも低賃金で働かざるを得ない状況に陥るという「貧困の連鎖」が生じているということです。

石神さんはLFAの中で知り合った中学生の女の子から「中学卒業後は生活保護を受けながらガールズバーで働きたい」ということを聞かされて驚きました。よくよく聞いてみると、母子家庭のその子の母も祖母もそうだったから、中学までは面倒見るが卒業後は自立しなければならないという決まりになっているというのです。さらに話をすると、本当は子どもが好きなので保育士になりたいという夢もあるけれども、そのための教育が受けられないので諦めていると言います。
石神さんは、そういった子どもたちと出会う中で、「頑張って道を開く」「頑張れば道は開ける」という考え方や社会は大事ではあるけれども、貧困によって「頑張りたくても頑張れない」子どもや家庭があるという事実を知らなければならないと言います。
育児放棄をされていたり、DVを受けていたり、学習障害を持っていたり、「頑張りたくても頑張れない」事情を持っている子どもや家庭がたくさんあります。そういった子ども達に対して石神さん達LFAが学習支援をしているわけですが、その学習レベルは低く、中学生2年生の時点で分数の計算ができない、アルファベットのAからZまでが書けないといった子ども達がたくさんいます。このことからも、中学卒業後に働き出したとしても「まともに」仕事ができるレベルではない、つまり「働きたくても働けない」状況を生み出していることがわかると石神さんは言います。

他人事から自分事へ

また、この貧困問題を「他人事」として捉えられがちですが、実は問題を放置することで将来的に自分たちの子どもにその負担がのしかかってくるということを理解して欲しいと石神さんは言います。将来的に日本でも教育の無償化を実現させると言われており、これは国が税金で教育費用を負担するというものですが、国による将来の税収のための「投資」です。国全体の高学歴化をはかり、将来の高収入化を実現させ、たくさんの税金を払ってもらえるようにするものです。でも、「貧困の連鎖」が続いている中では将来の高収入化は見込めないどころか、生活保護を受けざるを得ない状況が変わらなければ税収はマイナスになってしまいます。
また、このことからもわかるように教育は行政の問題であるので「国の責任だ」と言う人もいます。しかし、高齢化社会の問題が現実となってジワジワと社会全体に影響を与え始めている中で政治家や行政は福祉や高齢化にばかり目を向け、教育格差の将来的な問題に対してはまるでスピード感がないのが現実です。つまり、貧困や教育格差の問題を「他人事」にしていてはもはや自分達の子どもの将来を守ることはできないところにきていることを理解して欲しいと石神さんは力説します。

子ども達の将来を守るためにも、引いては日本の将来を守るためにも、現状を正しく認識し「自分事」として貧困や格差の問題に取り組んでいかなければいけないことを学びました。
石神駿一講師、ありがとうございました。