コミュニケーションの問題

寄居秩父倫理法人会の会長である柴崎亮二講師は、埼玉で63年三代にわたって自動車部品の製造をしている会社「シバサキ製作所」の三代目です。
先代で父親である柴崎猛さんも法人スーパーバイザーをつとめられていますが、柴崎講師が倫理法人会に入会したきっかけは12年前、当時係長だった頃に起こした品質問題だったそうです。
数百万の損害を出してしまった柴崎講師は父親である社長に処分を求め、他の関係者と共に減俸処分となりました。
問題の原因は社員さんとのコミュニケーションの問題、伝えたはずのものが伝わっておらず不具合が生じてしまったというもの。そこで自身のコミュニケーション力、人間関係についての学びの必要性を感じた柴崎講師は父親に相談したところ倫理を勧められ、深谷市倫理法人会に入会しました。
モーニングセミナーに参加して柴崎講師が最初に感じたのは「温かみ」でした。それは人生の先輩、社会人の先輩の方々が毎週朝早くから集まり、挨拶の仕方や返事の仕方を学んでいる姿を目の当たりにしたからです。
そこから学び始め、気がつけば単会の会長をつとめるまでになったということでした。

倫理を経営の軸に

ご自身が倫理で学んだこと、経験されたことを今は普及という形で周りの方に勧められている訳ですが、経営者に倫理が経営にどのように役立つのか、倫理経営とは何か、という疑問が出された時に伝えていること、考え方を教えてもらいました。
まずはじめに「経営」ということについてですが、これは企業経営だけにとどまらず、家族も人生も経営、そして社員さんも経営者ではないだろうか。経営という言葉を辞書で調べると「物事の大本を定めて事業を行うこと」とあります。「物事の大本」というのは軸のことであり「経」という文字で示されています。「営」とは常に変化していくものを表し横軸で示すことができます。
例えば、親子での事業承継時によく起こることとして二人の意見が違うこと、「軸がブレる」ことで社員が混乱するということです。対して「営」とは商品や製造技術、あるいは管理やマーケティングなどテクニックや技術といったもののこと。それだけに「営」とは時代の変化とともに変えていくべき物事です。
倫理法人会とは経営のうち「経」について、経営の「軸」について学ぶところだと柴崎講師は言います。この「軸」に倫理を据えた経営が倫理経営というものだということでした。
さらに倫理とは物理(物のことわり=法則)に対して倫(ともがら=人)の理(ことわり)であり、つまり手に持っているものを離すと下に落ちるという自然法則(万有引力)のように、人に対する接し方で相手の反応が異なる(笑顔に対して笑顔、怒った顔に対してしかめっ面)という「人における法則」のことだということです。
だからこそ、倫理は「行えば直ちに正しさが証明される」ものであり、それを経営の軸にした倫理経営とはこの法則を本にして行う経営だということでした。
柴崎講師が事業承継を決意したきっかけは、父親である先代が35歳の時に定めた経営理念と社是にあると言います。自社が何のために経営をしていくのか、何を良しとしてやっていくのか、それが社是にあります。
「お客様、社員とその家族、地域の人々の幸せのみなもとづくり」という社是には心から納得し、自分が企業を経営するに当たって、これができれば一生をかけてこの会社をやる価値があると柴崎講師は考えました。
また、この社是が「他者へのお役立ち」であることから、自社の経営の軸に倫理があったことを理解し、事業承継するに当たり倫理経営を推進していくこととしました。

4つの急所

一方で「社是社訓 壁に掲げて 倒産し」という川柳があるように、いくら立派なことを掲げているだけでは意味がありません。実際に柴崎講師も協力会社の倒産を目の当たりにした時、誰もいない会社の事務所にあるものは全て差し押さえられているのに、壁にかかった社是社訓だけは手付かずそのまま残っていました。
これは倫理も同じで、学んで「良い」と言っていても、他人にあれこれ説明をしたところで、自分が何もしていなかったら壁にかかった社是社訓と同じです。倫理も実践しなければ意味がありません。だからこそ柴崎講師は倫理経営を標榜しながらしっかりと実践しているということでした。
倫理経営の4つの急所
・率先垂範
・小さなことに磨きをかける
・明朗な心を重視
・家庭の調和

柴崎講師は倫理法人会入会してまず会社に取り入れたのは朝礼でした。朝礼で挨拶や元気で明るい返事を練習、壁に掲げた社是を唱和し、社長の思いを伝える。これを取り入れることで社内の一体感、チームワークが良くなり、何より社内が明るく元気になる。こうなってくるとお客様からも「挨拶が良くなった」「反応が良くなった」と評価されるようになりました。
ところが課題であった品質については中々変化が見られませんでした。そんなある日のこと、朝柴崎講師がロッカールームで着替えをしていると、隣の休憩室にいた社員さんの話し声が聞こえてきました。
「今日、伜は何かあったんじゃないか?」
自分のことを社内では「せがれ」と呼ばれていることにも驚きましたが、それ以上に今朝の自分の態度をしっかり見られていることに驚きました。柴崎講師は毎朝出勤で家を出る時には奥さんが見送ってくれるのですが、その日の朝はそれが全く無かった。心に不満を残したまま出勤し、恐らく自分でも気づかないうちに不機嫌な態度で社員さんに挨拶をしていた。それを見た社員さんがすぐに「何かあったのでは?」と気づいてしまう。
この時柴崎講師は、倫理を学んで社内に朝礼を導入したりしていますが、結局は社員さんに「やらせている」だけで、自分は嫌なことがあったらそれをそのまま態度に出して相手に接するようなことをしている。つまり率先垂範、まず自分から実践しないといけないのにできていない上に社員さんを変えようとしている姿、倫理を軸にできていないことに気づきました。これでは課題の品質問題も改善するはずがありません。
「倫理経営基礎講座」のテキスト第12講「倫理経営とは」に率先垂範について書かれていますが、率先垂範とは「経営者と従業員を心情的に結びつけるもの」とあります。柴崎講師も基礎講座でこのことを学んでいたけれども、実際に自分がその壁にぶつからないと気が付かないということを思い知らされました。

心を添える

自動車業界において品質を良くする秘訣、「基本のABC」というのがあります。
A:当たり前のことを
B:馬鹿になって(馬鹿にせず)
C:ちゃんとやる
当然といえば当然のことですが、根本はこれしかないということです。
倫理の実践の中で「靴をそろえる」というのがありますが、柴崎講師はこれがキチンとできるようになるのに4年かかったそうです。それはできるようになるというのは習慣化されてのことですから、1日でもできていなかったまた一からやり直しになるからです。ある時法人スーパーバイザーにその実践を見られた時に「手で揃えなさい」と言われました。そこで、それまで足で揃えていたのをキチンと手で揃えるようにしたところ、1年間やり通すことができました。
実はこの「手を添える」というところにも意味があり、それは対象に「心を添える」行為だということでした。物もそうですが、当然人に対しても心を添えて感謝をすることが重要で、それを身につけるための実践だということでした。人に対する当たり前の行為ですが、こういったことを「馬鹿になってちゃんとやる」やれるようになることが大切なことです。
これは同時に「マンネリ化を防ぐ唯一の方策」とも言われ、常にそこに心を添えているかどうかでマンネリ化しないでできるわけです。
柴崎講師は単会の会長になってから徐々に会社の品質問題が改善していってるとのことですが、恐らく靴を手で揃えることができるようになり、このことを社内でも話ができるようになったからではないかと考えています。

急所の3つ目である「明朗な心を重視」ということも、問題が起こった時に「駄目だ、どうするんだ」と後ろ向きに捉えるのではなく、「これは何かを気づかせてくれようとしているから考えてみよう」と前向きに捉えることが重要です。それ以上に重要なのが、そういった捉え方、心の持ち方を常にキープすることが大切です。
とは言っても、誰しも一度は「取り返しのつかない」ようなことをしてしまうことがあり、立ち直れないほどのダメージを受けることがあります。そんな時でも倫理を学んでいれば、その教えを噛みしめることで心を落ち着かせることができ、小さな明かりが灯ると柴崎講師は言います。
柴崎講師もある時大変なことをしてしまった時に、移動中の飛行機の中で「万人幸福の栞」の中の一節を4時間かけて読み込みました。最初は中々文章が頭に入ってこず、何度も読み返したことで4時間もかけて読みました。でも、読み終えた時には感謝の心と恩に報いるという前向きな気持ちが蘇ってきました。
この4時間を長いと思うかもしれませんが、倫理を学んでいなければ4時間どころか一生苦しむことになるかもしれないわけですから、4時間で前向きな明朗な心を取り戻せる倫理はとても貴重なものだと言えます。

4つ目の「家庭の調和」というのは、夫婦・親子といった家庭内での問題が企業経営や仕事に影響を及ぼすということを表していますが、これもそれだけに留まりません。柴崎講師も奥さんとの仲はとても良好だと言いますが、でも当然意見が対立して時には喧嘩になることもあります。でもだからこそ、意見が一致した時、例えばやりたい仕事について話した時に賛成をしてもらえたら自信を持って「百人力」を得た気持ちになり、大いに仕事に励むことができる。つまり「対立関係」にある者同士の一致、調和というものがとても大きなエネルギーを生むということを意味していると柴崎講師は言います。
その最も基本的な「対立関係」が夫婦であり最も大切ですが、これ以外にも会社内の経営者と従業員の関係も「対立関係」にあり、そこでの一致、調和が会社を動かすエネルギーになるわけです。

倫理が会社や個人に与えてくれるもの

柴崎講師は倫理を学び、会社にも朝礼をはじめとして倫理を経営の軸にしてきましたが、ある時会社の変化、成長を実感した出来事がありました。
それは工場のある寄居の辺りは数年に一度大雪が降り、工場の稼働に影響が出るほどです。4年前やはり大雪となり、朝から勤務する社員さんが工場に入れない状態になり、朝から雪かきをして工場に入れたのが昼ごろで稼働が午後からになってしまいました。24時間稼働をしている工場ですから午前中の4時間工場が止まるというのは大変な機械喪失です。それから日が過ぎて4年後に同じような大雪が降るという予報が出ました。この時ちょうど出張の予定になっていた柴崎講師は前日部長さんに4年前のことがあるから頼むとだけ伝えました。出張の移動中心配をしていた柴崎講師の元にラインが入り、社員さんが早朝から出てきてくれたお蔭でいつも通り稼働しているという連絡でした。よく聞くと、早朝だけでなく前日の晩からすでに雪かきをして万全の体制でその日を迎えていました。この4年の間に倫理を学び、倫理経営を推進してきたことでこれだけの変化・成長があることに驚くと同時に倫理に感謝したと柴崎講師は言います。

最後に柴崎講師が追い求めてきた「自由」というのものが倫理の中に説明されていたことを教えてくれました。
若い頃は自由になりたくて親元を離れ、別の会社に就職した時期もありましたが、不摂生から体重も今より多く、病気もしたということで、自由どころか不自由を感じていました。
倫理に出会い「万人幸福の栞」の中の一文を読んだ時に、自分が求めていた「自由な状態」というのを初めて知りました。
「ふんわりとやわらかで、何のこだわりも不足もなく、澄みきった張りきった心、これを持ちつづけることであります」
決して規律や規範があるから、あるいは自分を律することが不自由なのではない、この「純情 すなお」な状態でいられることが自由なのだということに気づいたということでした。
倫理を経営の軸にした倫理経営をしていく、「純情 すなお」な心を持つことができれば先代である父親との関係も、社員さんとの関係も、そして夫婦家庭の関係も自由な状態でいられる。だからこれからも倫理をみんなと一緒に学び続けていくということでした。

 

講師プロフィール

寄居秩父倫理法人会 会長
柴崎 亮二氏

生年月日 1976 年5 月1 日(42 歳)
出生地 埼玉県大里郡寄居町桜沢
2000年 大学卒インターネットプロバイダ運営会社入社
2002年 中小企業基盤整備機構 中小企業大学校東京校後継者コース卒業
2003年 株式会社シバサキ製作所入社
2004年 製造課長就任
2005年 製造部長就任、モンゴル工場稼働
2009年 工場長就任
2012年 専務取締役就任
2013年 新本社工場設立、中国珠海 技術提携工場稼働
2014年 タイ・サラブリ合弁出資工場稼働
2015年 代表取締役社長就任
2017年 寄居・秩父倫理法人会 会長就任