兄弟経営のはじまり

旧満洲国の生まれの黒澤眞次講師は、命からがら日本に帰国したところからお話が始まりました。

昭和34年に高校卒業と同時に、父親が起業した消毒の会社に入社。社名の「イカリ」は、最初船の消毒を主にしていたところからきています。

深川に事務所を構え、さぁこれからという時に社長である父親が脳溢血で倒れ、昭和37年53歳の若さで急逝されました。

黒澤講師がまだ20歳、一緒に働いていた兄も22歳という若さ。満洲国で生まれ育った黒澤講師は生前の父親から常々中国の諺を聞かされていました。「兄弟斉心土変金(けいていさいしんどへんきん)」兄弟が仲良く力を合わせていればいつか土も金になる、というもの。まだ若い二人でしたが、この言葉から兄弟二人が協力して頑張れば何とかなると決意し、事業を継続していくことになりました。

ところがその翌年、昭和38年に大事故を起こしてしまいます。

戦後最大の火災

当時、池袋の西武デパート7階にある食堂街の害虫駆除の仕事をしていました。ある日の休憩時間に、従業員のタバコの不始末から火災を起こしてしまいました。それも死者7人、重軽傷者130人という当時「戦後最大」と言われた火災となりました。

事故後、消防、警察、労働基準監督署などへ毎日のように出頭し調書を取られたわけですが、その時、危険物取扱主任の資格が無い等色々な指摘を受けました。つまり資格や危険物等の知識が無い中で仕事をしていたことに初めて気づかされました。

人を死なせたほどの大事故だったため、死んでお詫びをするしかないと思いながら、兄弟は当時の西武のオーナー堤清二さんのところにお詫びに行きました。しかし堤さんは、「事故は起きてしまったことでどうしようもない。生きて、これから絶対にこんな事故を起こさないように頑張りなさい」と励ましてくれました。

この時より黒澤兄弟は二度とこんなことを起こさないことを決意し、様々な資格の取得や知識を得ること、さらに禁煙等の社内環境の整備など、事故を起こさないための体制を徹底しました。

そして、事故により正に崖っぷちの状態に立たされましたが、堤さんをはじめ社会に恩返しするために「社会に生かされ、社会に役立つ会社」にしていこうと決意して再スタートすることになりました。

倫理との出会い

イカリ消毒さんは、兄弟が協力してそれぞれの役割を果たしていく「兄弟経営」の会社です。

2つ上のお兄さんは開発熱心で発明好きだったので開発を担当し、黒澤講師はマネジメントを担当しました。黒澤講師は事故の教訓から「専門家集団」を作るべく従業員にも資格取得を徹底しました。4つ下の弟さんは営業を担当しました。そして3兄弟が力を合わせて「会社の永続性確立」「社員の幸せ」「足腰の強い盤石な体制」という揺るぎない3つの柱を持つ会社を目指しました。

黒澤講師が倫理に出会ったのは今から44年前の昭和49年のこと。まだ法人会が無い頃、自宅のある杉並である朝夫婦で散歩をしていたところ、早朝にも関わらず「朝の集い」という看板が出されているのを見つけました。「どなたでもご自由にお入りください」と書かれており、興味を持った夫婦は覗いていくことにしました。

その時の先生が話されていたのが「朝を制するものは人生を制する」、人生を2倍にも3倍にも生きるコツがあるから明日から毎日来ませんか、と誘われました。ちょうど杉並に引っ越してきたばかりで、こんな近くに毎日勉強する道場があることを知り、夫婦で通うことにしました。

倫理の学びの中で親祖先を大事にすることを知った黒澤講師はそれ以来御墓参りを欠かさずいくようになりました。兄弟にもそのことを伝え何度か一緒に御墓参りしましたが捉え方も兄弟それぞれで、熱心に続けたのは黒澤講師だけでした。黒澤講師はその熱心さから黒澤家の家系を調べ、300年前まで遡ってルーツが山形にあることもわかったということでした。

100年企業を目指して

また、倫理を学び始めて朝は3時半に起床する「朝型」の生活になりました。このことは黒澤講師に「朝飯前の人生」があることを教え、朝食前に勉強をする習慣ができたお陰で色々な資格に挑戦することができました。

また、社員さんに会社のことや考え方、価値観を伝えるために「心の経営」という資料を毎年追記しながら渡しています。これも倫理を学び出してから始めました。さらに、法人会となってからは仕事に直結したものも必要であることを知り、「クリンネス」というものも発行することにしました。

イカリ消毒さんは100年企業を目指す上で、同族企業としてどのようにしていくべきかということを、これからを担っていく3人兄弟の子供たちとともに繰り返し学んでいます。その中で事業承継についても計画を立て誰が引き継ぎ、誰がどういう役割を担っていくのかを決め、その上で将来の事業計画を立てています。

また、坂本光司先生の「日本でいちばん大切にしたい会社」のことを知り、現在は100年企業を目指す上で坂本先生から指摘された3つの指標「残業時間」「有給消化率」「障害者雇用」のそれぞれの目標を達成できるように兄弟とその子供たちが一丸となって取り組んでいるということでした。

兄弟経営といってもそれぞれ個性が違うので意見や考えが異なり簡単なことではありませんが、倫理の教えにあるように「相手に合わせようとするから合ってくる」ことを誰かが理解し実践していけば上手くいく、そうして社員さんも一緒になって考え困難を乗り越えていく、これこそが「倫理経営」だと言うことでした。


[講師プロフィール]

イカリ消毒株式会社 代表取締役会長
一般社団法人倫理研究所 法人局 参事
黒澤 眞次

昭和15年 中国東北部生まれ。
昭和34年 会社設立。
昭和38年
業務中の事故によって当時戦後最大と言われるビル火災を引き起こす。
この“会社存亡の危機”とも言うべき大惨事の経験から、知恵・技術の向上と絶対の安全を心に誓い、「危険物取扱主任者」をはじめとする国家資格・民間資格82種を取得。 現在、イカリ消毒株式会社代表取締役として、全国約100ヶ所の営業所の経営、統括にあたる。 商工会議所・各学校・経済同友会等の講演会をこなす傍ら、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌等のマスコミに紹介される。著書に「ビジネスマン生活術」「資格は人生を創る」「風に立つ」等がある。