「メイド・イン・ジャパン」ブランドを守る

今回は戸田徹男名誉研究員から「経営者の矜持」というテーマでお話をして頂きました。
矜持というのはプライドのことですが、かつての日本の企業は誠実さ、確実な品質など製品の信頼性において輝ける「お手本」でした。
しかし、昨今の相次ぐ大手企業の不祥事、偽装事件というのはこれまでの「メイドインジャパン」のブランドを傷つけかねない事態になっています。一般企業だけでなく、国の行政においてさえ不祥事が頻繁に起こっています。
なぜ、今このように立て続けに問題が起こっているのかを考えた時、人は利のある方に向かいますから、正直よりも騙すほうが有利だと考えるので不正を行うのです。問題が起きなければ、バレなければいいのだ、あるいは厳しい競争の中で少しでも利を得るために不正に手を染める経営者もいる。いくら苦しい事情があったとしても、不正をしてもいい訳はありません。

歴史を紐解いていくと、長く鎖国をしていた日本において限られた中で商売をしていくためには信用信頼こそが生命線であり、それを失ったらもはや商売を続けられなかったわけです。それだけに、誰も見ていなくても「お天道様が見ている」として不正を厳しく戒め、自分たちを律していました。これは明治維新を経て、世界と経済的にもつながるようになった時でも、商売におけるこの道徳観を持ち続け、また目先の利益よりも長く付き合うほうが得だという考え方から嘘や誤魔化しをせず正直に包み隠さず仕事をしてきました。
ところが近代に至って戦後の混乱期には、「万人幸福の栞」の中でも丸山敏雄が述べている通り、「正直者が馬鹿を見る」というこれまでの道徳観や道義を否定した考え方が蔓延し、バブル期の「財テク」に代表されるような「楽して儲ける」ことを良しとするまでに至ったわけです。
この考え方が今に至って昨今の不祥事につながっているように思われます。同時に、そういった不正が発覚するたびに、以前のような正直に包み隠さず行なっていた仕事ぶりが改めて正しい、長く続けていく秘訣であることを教えてくれています。

老舗が大事にしてきたもの

このように、かつての日本には「正しいことをすれば自分の利益になる」という「商人道」というのがありました。正直にするほうが儲かるという考え方で、例えば近江商人の「三方良し」というのも同じ考えのものです。売り手だけ儲かるのではなく、買い手も満足し、社会的にも評価されるような商売でなくては長続きしないと教えたものです。
実は老舗と言われるところが大事にしてきたのがこの「商人道」でした。経営者は今良ければいいというのではなく、50年後、100年後を見据え、そういった老舗が守ってきた正直や誠実という言わば「ジャパンブランド」を新たな柱として世界と戦っていくことが求められています。

いつでも良いものを作る

では、老舗が具体的に何を大事にしてきたのかを見てみますと、一つ目は「いつでも良いものを作る」ということです。老舗の3分の2は製造業と言われていますが、これは「モノづくり」というのが日本の柱だったことを表しています。いつでも良い仕事をするというのは、いつでも「信頼を裏切らない」惚れ惚れするような品質を守っているということであり、いつでも自信を持って品物を勧められるということです。
また、老舗は長い時間をかけてお客様や取引先、地域社会そして従業員との信頼関係を築いてきました。真心を込めた誠実な商売であり、従業員を家族と考え、目先の利益欲しさの仕事はしてきませんでした。
時代の大転換期ではありますが、何を変え何を変えてはいけないのかを考えた時に、この老舗が大事にしてきた「ジャパンブランド」は変えてはいけません。

作りすぎない、売りすぎない

老舗が大事にしてきた二つ目は「作りすぎない、売りすぎない」ということです。経営者は兎角売上だ、利益だと規模拡大を図ることに一生懸命になりがちですが、大きくなれば会社は潰れないのでしょうか? 大きくなれば利益率は一定になるのでしょうか? 大きくなれば社員さんは幸せになるのでしょうか?
勿論企業は業績を上げ、利益を上げなければいけませんが、それは飽くまで手段に過ぎません。
企業の真の目的は、優れた商品を作り、優れたサービスを提供して社会に貢献すること、つまり世の中の役に立つことであり、人々を幸せにすることです。
老舗の創業者が残した家訓の多くに拡大志向を戒めた言葉があります。例えば「商いと屏風は広げると倒れる」というもの。また、社員さんを増やし過ぎるなというのもあり、これは景気が良いからといって増やすと、景気が悪くなった時に辞めさせなければならなくなるからだというものです。他にも「分相応」や「身の程を知れ」、あるいは「家業を伸ばすこと傘の如くに」というのもあります。傘は末広がりですから、いきなり拡大するのではなく徐々に広げていくことを説いています。つまり、本業を大事にしながら時代に合わせて必要な業種を増やしていくのであれば良いのですが、まったく畑違いのところで金儲けをしようとすることを戒めているわけです。

従業員を守る

老舗が大事にしてきた三つ目は「どんなことがあっても従業員の首を切らなかった」ということです。老舗は従業員を家族と考え、絶対首を切りませんでした。
日本経済はバブル崩壊後長い低迷期を迎え、2000年台に入ってからは「市場原理主義」に傾き始め、経済界もメディアもこぞってこれまでの「年功序列」や「終身雇用」は企業の競争力を削ぐものとし、多くの企業が欧米型の経営システムを導入して短期的な成果主義に舵を切りました。
このことから日本の雇用関係が大きく変化していくわけですが、一番大きな問題点は人件費をコストとして考えるようになったことです。コストですから、機械や材料と同じように人を「資源」として見るようになりました。非正規社員やパート、アルバイト、契約社員といった人を多く採用し、人を「景気の調整弁」として業績が悪くなると真っ先にコスト削減の対象として扱うようになったわけです。
このような環境下で社員さんは会社のために一生懸命働くでしょうか? まず自分を守ることを優先的に考えるのではないでしょうか。お客様より自分のほうが大事と考えるようになるのは当然の成り行きです。
「日本で一番大切にしたい会社」の著者である法政大学の坂本光司さんは本の中で「正しき経営は決して転ばない」と述べられています。正しき経営とは「一番大切なことを一番大切にすること」だと書かれています。企業経営にとって一番大切なこととは、企業を支えている社員さんとその家族の命と生活を大切にすることです。日々お客様と接しているのは社員さんです。実際に製品を作っているのも社員さんです。ですから経営者はどんなことがあってもそんな社員さんとその家族を路頭に迷わすようなことをしてはならないのです。

倫理研究所の創始者である丸山敏雄は著書「人類の朝光」の中でこう述べています。
「正直者が馬鹿を見るのではなく、正直そのものが気抜けして馬鹿になっているのである。本当の正直は、すべきことを堂々とし、してはならぬことは断じてせぬ。白と黒とをはっきりして、グズグズせず、曖昧さがない。瑞々しく大らかで、清く明るく飾らず包み隠さず赤裸々の生活、これが正直である。恐れずためらわず、堂々と自己を主張する。思うこと信ずることを断固として実践に移す、これが正直である。心に思えば口に言い、胸に悟ればこれを行う。しん言一致、志行
本心を偽らず、己に忠なる者、これが正直である」
「地上に大業を為すは正直者に許された特権である。しかして古来、正直と馬鹿とは一脈相通ずる、馬鹿正直と言われる所以である。小なる正直は馬鹿を見、大馬鹿者は時勢を改め天地を動かす。正直とは己の真実に生き抜くことを言う。現代人は偉大なる正直者を待っている」

自分に正直に生きる時に道は開ける。経営者の生き様とは己の信じる真実に生き抜く正直者の心意気のこと。

 

【講師プロフィール】
戸田 徹男
一般社団法人倫理研究所名誉研究員。
1945年熊本市生まれ。
月刊誌『新世』の編集に携わり、常任理事、法人局長、生涯局長、総務局長などを経て、2015年1月から現職。
個人研究として登校拒否・引きこもり研究に関わっている。
著書は『喜働-実例に学ぶ17のポイント-』(2000年)、『子が変わる』(2001年、共著)、『信じる力―ひきこもりを解決した母たち―』(2011年)いずれも新世書房刊。