心に突き刺さった一言

荒井久満さんは法人スーパーバイザーという立場で会員の皆さんに倫理についての指導や教育に当たられていますが、入会のきっかけは積極的なものではありませんでした。
荒井講師が当時青年会議所で理事長をやることになり、ある方に役をお願いしたところ快く引き受けて頂いたのですが、ある条件を出されました。それが倫理法人会への入会でした。やむなく了承したものの、青年会議所のほうが忙しいこともありモーニングセミナーに行くことはありませんでした。
ところが、しばらくしたところでその青年会議所の先輩に呼ばれて、その方が倫理法人会の会長をやるので専任幹事を引き受けて欲しいと頼まれ、先輩の頼みということで引き受けました。その後もモーニングセミナーには出なかったのですが、10月に役員は富士研に行くことになっているからということで、その当日は何も考えずに物見遊山で富士研に行きました。
お昼に到着して昼食をとっていると、研修所の先生が荒井さんのところに来て挨拶を交わしつつ初対面とは思えない強烈な一言を発せられました。

「(あなたの会社)儲かってないでしょ?」

荒井講師は、逆にこの一言が無かったら倫理法人会との縁は無かったと述懐します。実は、1年前に社長だった父親が亡くなり跡を継がれたばかりだった荒井講師だったのですが、5千万の赤字を抱えた状態だったので、その突然の一言が心に突き刺さりました。

「大体あなたのような食べ方をする人の会社は儲かってないものです」

当時不摂生から体重が90kgもあった荒井講師は、食べるのも早い上におかわりをして食べ過ぎるところがあり、その時正にその姿を見られていたのです。言われて腹は立ちましたが、事実を突きつけられた荒井講師はその日の晩から食べるときには50回噛んで食べるようにしました。
それまではお腹いっぱい食べないと寝られないと思っていましたが、しっかり噛んで食べるようになると少ないと思う量でも満腹になった。これを続けていると1ヶ月で4kg落ち、半年で15kgもの減量になりました。急激に痩せたことで周りの人から心配されるほどでした。
それから3年の後に再び富士研を訪れた荒井講師は、キツイ一言を言われた先生をつかまえて、お蔭でこれほど痩せることができたということを伝えました。すると、褒めてくれると思っていた荒井講師にその先生は意外な一言を言いました。

「あなた3年間も勘違いしていたのですか?」

先生が荒井講師に対して言った「食べ方」というのは早かったり食べ過ぎることではなく、食べる時の「感謝」が無いことに対してだったのです。食べるという行為ではなく、その行為を引き起こしている心の状態、具体的には「感謝」の気持ちが欠けていることを指摘されていたのです。
それを聴いた荒井講師は、それまでどんな時でも50回噛むという食べ方で多少気まずい場面もあったことから、50回噛むことはやめました。やめた途端に3kgほど体重が増えたそうですが、この経験を通して心の持ち方も大切ですがまずは「やり続ける」ことの大事さを実感したと荒井講師は言います。
また、別の機会に「貯金箱にお金が貯まるようにするには」という質問に対して「貯金用の時計を用意して、決まった時間にベルが鳴るようにし、毎日決まった時間にお金を入れるようにする」ということを言われました。このことから上手の秘訣は「同じ時間に同じ場所で同じことを行う」ことだということでした。

まずは実践すること

その後、千葉県の流山市倫理法人会の会長に就任された荒井講師。ある時、定年退職された方が入会されました。
その方は奥様と一緒にモーニングセミナーに来るようになり、周りの人から「定年後も学び続けるだけでなく、ご夫婦で来るなんて偉い方だ」と尊敬されました。
ところが、1ヶ月を過ぎた頃から奥様がパッタリ来なくなった。なぜかと訊くと、奥様の方は夫が騙されて退職金を持っていかれないか心配で見に来ていた、ということでした。さらにしばらくすると、今度は奥様がモーニングセミナーに行ってはいけないと言い出したと相談をしてきました。
よくよく訳を訊くと、その方はモーニングセミナーで良い話を聴くと毎回帰宅後に奥様に聴いた話を伝えていたそうです。最初は奥様も良い話だと聴いていたそうですが、だんだん腹が立ってきたと言います。なぜなら、夫が話す内容は確かに良い話だけれども奥様に向けて、奥様を変えるために話をしている、夫に都合のいいように脚色されているというのです。
相談を受けた荒井講師は「それは奥様の言うことが正しい」と言いました。
なぜなら、倫理は実践が第一であり、良い話を聴くだけではなく、まず自分がやってみることが大事だからです。その方は奥様に話す前にまず自分でやってみて本当にその通りだと、実感して初めて奥様に実践したことも含めて伝えないといけなかったのです。
その方は奥様に自分の都合のいいように脚色して話を伝えたわけではありませんでしたが、実践することで結果が得られるというものだけに、聞いた話をそのまま人から言われるだけだと自分に向けられていると感じてしまうものなので、奥様はその通りの反応を示していたのです。

荒井講師は倫理法人会の生みの親である滝口長太郎さんがご存命の頃に入会し役員をされていたそうですが、ある時滝口長太郎さんに質問をしました。
「なぜ、家庭倫理の会が毎日5時からやっているのに、法人会は週一回6時半からなんですか?」
法人会はその名の通り経営者や仕事をしている人の会だから週一回のモーニングセミナーで学んだことを残りの5日間職場で同じ時間に出勤して実践する。残りの1日は休みではなく、1週間無事に働くことができたのも家族のお陰だから、家庭で同じ時間に起きて実践する。だから、毎日どこか別のモーニングセミナーに行くなどいうのはいけないということでした。

また、荒井講師はセミナー講師の先生からモーニングセミナーでの会長あいさつは魅力的なほうが良いと言われ、最初は困りましたが、やはりここも実践の話をすることにしました。一つはモーニングセミナーで聴いた話を実際に自分でやってみてその結果や感想を伝えること、もう一つは会員のもとを訪れた時に感動感激したエピソードの話の2パターンです。人から聴いた話を伝えようとすると上手くしゃべらないといけませんが、自分が実践したことであれば自分の言葉で話すだけで十分伝わります。

さらに、荒井講師は倫理指導を受けた際に、実践にはその効果の出やすさに違いがあることを知りました。一番は家庭、その次が職場ですが、ここで結果が出たとしてもまだ喜んではいけない。実践を通して家庭や職場が良くなった、本人が変わったということが周りに認められ集まってくるようになってこそ行った実践は評価されるということです。
家庭、職場が良くなることは良いことですが、まだそれは個人的で限定的だからで、それが周りに波及していくほどのことでなければ、言い換えれば周りが驚くほどの変化でなければ大した実践ではないということ。
ただし、これは「大きなこと」をしなければいけないということではなく、その人にとって難しいことに挑戦するということであり、例えば何時も遅刻してくる人が、ある時から5分前に必ず来るようになれば周りは認めてくれます。

実践には順番がある

荒井講師が二期目の会長を引き受けるという時、一度目は奥様に相談せずに会長を引き受けたのですが、倫理で何事も妻・夫に相談をしなさい、と教わってきたので二度目は悩んでしまいました。
実際家庭内で色々と揉め事があるだけに、相談をしても却下されるかもしれない。困った時の倫理研究所ということで、荒井講師は倫理指導という形で相談しに行きました。
結論はキチンと奥様に相談をして、辞めろと言われれば会長を引き受けないこと。ただし、会長になってこの1年間やってきたことを伝えるぐらいならいい、とも言われました。そして、今からどこにも寄らずに真っ直ぐ家に帰ってすぐに奥様に相談してください、そうしないと心がブレるから、と言われ荒井講師は直ぐに家に帰りました。
帰宅するとすぐに奥様に相談があるからと、別室に呼びました。
ところが部屋に入ってきた奥様の目はつり上がり、開口一番「普段はこちらの話を聴いてくれないのに、倫理だからと言って相談を聴いてくれとはどういうことですか」と叱られました。これは駄目だと諦めた荒井講師でしたが、とりあえずこの1年間やってきたことを話し、会長の話があるけれどもどうしましょうか、と訊いてみました。
奥様はすぐには答えず、しばらく考えてから「この10年は色々揉め事があってとても暗い10年だった。でもこの1年はそういうことが少なくなった。だから倫理が良いのかもしれない」と言って、いくつか条件は出たものの会長職を許してくれました。

荒井講師はこのことを改めて次の日に倫理研究所へ報告に行きました。そこで「実践には順番があり、それを間違えると上手くいかない」ということを教わりました。そのキーワードは「近い」。

自分⇒妻(夫)⇒家庭⇒会社⇒団体⇒地域

1年目は自分で決めていきなり団体(倫理法人会)へ行き、間の妻(夫)、家庭、会社へ何も話をしていないから上手くいかない(結果が出ない)。でも今回は奥様にまず相談をしたので、今から順を追って家庭(ご先祖)へ報告し、会社の社員さんへも報告をしたならうまくいくと言われました。すると確かにその年は会員も増え、モーニングセミナーの参加者も倍増したそうです。
事業のことでも同様のことがありました。
それは資金繰りが苦しい時に倫理指導を受けた時には、「お墓参りはしているか」という問いに「している」と答えたところ「奥様と一緒に行っていますか」と問われました。一人でお墓参りに行っている荒井講師に対して「妻(夫)を飛び越えて家庭(ご先祖)に行っても上手くいかない。夫婦が仲良くしている様を見て家庭(ご先祖)は話を聴いてくれる」ということでした。
これは子どもを躾ける時も同じだと荒井講師は言います。夫婦が揃って子どものことを話し合い、その上で躾けなければ上手くいかない。夫婦が話をせずにどちらか一方が躾けようとしても子どもは夫婦の姿を見ていて意見が異なる、仲が悪いことを知っていて言うことを聞かない。

また、会社での問題でも同じことがありました。工場長とうまくいかないことがあり倫理研究所へ相談しに行くと今度は「家庭や親戚での問題はありませんか?」と言われる。親戚でトラブルが起こっていることを告げると、「まずはそちらを解決してください」と言われました。
会社の相談をしに行ったのにと思いながらも、とにかくはまず親戚におけるトラブルを2ヶ月かけて解決させました。その報告を倫理研究所にすると、「その後工場長とは如何ですか?」と尋ねられました。そう言われれば、あれから問題は起こっていない。
「トラブルというのはお互いの人間性が同じレベルだから起こる。つまり、どちらかが一方を受け止める”度量”があればトラブルは起きない。それに人は嫌なことから逃げよう、避けようとするところがあり、そのような一番辛く避けて通りたいのが身内での問題。だからこそ、その身内、家庭での問題から逃げずに対処し、そこでさらに起こった問題を黙って受け止める”度量”を持つことができれば、会社での問題を受け止めることはたやすい」

倫理で夫婦のこと、家庭のことが大事だというのはこのことだと荒井講師は言います。
倫理でも実践する時に自分の都合の良いところから手を付けようとしますが、自分を磨く上で、正しく結果を出すためにはこの順番が大事だということでした。