震災後に南相馬へ

7月7日に行われました杉並区西倫理法人会の設立30周年記念の祝賀会で子どもたちの歌とダンスを披露してくださいました「トモダチプロジェクト」代表の田中菜穂さんが本日の講師です。

正式には「南相馬&杉並トモダチプロジェクト」といって、福島県南相馬市と東京都杉並区の子どもたちを歌とダンス、ミュージカルを通して支援をしています。
田中さんは元々ミュージシャンで数多くの有名な楽曲を手がけてきました。
東北大震災の時に南相馬のあるパン屋さんから歌の依頼が来て、作ったその歌がきっかけとなりこの活動が始まりました。その歌を南相馬の子どもたちと歌うことになり、一人で始めたこの活動も今では南相馬と杉並の子どもたち70人とその家族が一緒に活動をしてくれています。子どもたちは2つの地域を相互に行き来して、それぞれで一緒に練習をし、たくさんの観客の前で歌とダンス、演技を披露しています。

田中さんは以前杉並の方南町に住まわれていて、震災もそこで遭遇しました。お子さんの少年野球で交流があった南相馬に何度か応援で訪れていたことが最初の繋がりです。
震災後は繋がりのあった南相馬へのボランティアとその中での歌の制作をきっかけとして、昨年6月には南相馬に拠点を移しました。それより少し前に相双倫理法人会の高橋美加子さんに誘われて倫理法人会にも入会しました。

具体的なことを一つずつ

田中さんが子どもたちに教えている「ボイストレーニング」を本日の参加者と一緒に行いながら、活動によって得られたこと、体験したことをお話してもらいました。
声を出すためにはたくさんの息を吐かなければいけないので、まずはたくさん息を口から出すところから始めました。そして、そこに声を乗せ、声を刻むことでリズムを出していき、最後にメロディに合わせていきます。

田中さんは子どもたちを指導する時に心がけていることがあります。
それは、「楽しく歌おう」「お腹から声を出して」「○○のように歌おう」といった抽象的なことを言わないこと。声を出すということですらわからない子どももいるので、「具体的なことを一つづつ(クリアしていく)」理解させていくことが大切だということでした。
プロジェクトに参加してくれる子どもたちは「エネルギーは高いけどどうすればいいかわからない」ということが多いそうです。それだけに個性豊かだけれども同時にバラバラになりがち。だからこそ”つっかえている”ものを取り除いてあげる、どうすればいいかを具体的に教えてあげることで彼らのエネルギーは開放され驚くような結果を生み出します。

中にはプロジェクトに参加していながら、1年間歌うどころか話すこともしないという子どもがいたそうですが、1年過ぎたある時突然に堰を切ったように歌いだしました。恐らくその子も1年かけて具体的なエネルギーの出し方を学ぶことで「心のつっかえ」が取れて、これなら自分でも歌えると気づいたのだろうと田中さんは言います。
田中さんはその子が自分で歌いだすまで「歌いなさい」とは言いませんでした。子どもたちは皆「楽しみたい」と思ってプロジェクトに参加してきています。けれども心のどこかに「つっかえ」があるから歌うことも踊ることもできない。それが取り除けない限り動けない、自分で理解して「腑に落ちる」ことではじめて行動できるようになるからです。

歌の大三角形

田中さんはこの「声」「リズム」「メロディ・歌詞」を「歌の大三角形」だと説明してくれました。
「声」はトレーニングしたように腹筋を使ってたくさんの息を吐き、持って生まれた声帯を通して出すのでフィジカル(肉体的)なものであり、人それぞれでどうすることもできないものだと田中さんは言います。つまり「声」はその人らしさを表していますから鍛えるのではなく、自然に出せるように個性を伸ばすようにする。
一方「リズム」はセンス(感覚)によって体得していくものなので、色々なジャンルの音楽を聴いてそのセンスを磨いていくことが大切。カラオケが得意だという人の多くが「メロディ・歌詞」が大事だと考えるのですが、これは頭で覚えて再現するものなので、よほど「声」の方が伸ばしていくためには重要だということでした。
そしてその三角形の中心にある歌う上で一番大切なものは「心」だと田中さんは言います。子どもたちにも歌う時には自分の目の前に大事な人を思い浮かべて、その人のために歌うように指導をしています。子どもたちは南相馬と杉並のそれぞれのことを思って歌っています。

田中さん自身もトモダチプロジェクトの通じて歌についての考えが変わったと言います。震災前はミュージシャンとして仕事としてヒットソングを作ってきました。それだけに、震災後ボランティアとして南相馬に関わることが徐々に負担になっていきました。
でも、ここで自分が手を引いたら子どもたちはどうなるのかと考え、未来ある子どもたちのために子どもたちと歌うことを決断しました。かわいそうだから仕事のためにやっている歌を提供している自分に気づき、それを変えることにしました。
振り返ると「歌の大三角形」と同じ様に田中さん自身の中にも大三角形があると田中さんは気づきました。
南相馬との関係はお子さんの少年野球がきっかけであり、震災後に原発事故の影響で使えなくなったグラウンドを見て悲しみと同時に子どもたちを守らなければならないという強い「母」としての思い。そしてパン屋さんに頼まれて作った歌が南相馬の子どもたちを喜ばせることになり、これまで自分が仕事として培ってきた「ミュージシャン」としての技術が人の役に立つことを知りました。そして元気になってもらうために歌を教え、今はより多くの子どもたちの成長のため「先生」として田中さん自身も学びながらプロジェクトを運営しています。

トモプロの大三角形

さらに、この「トモプロ」にも成立させるための重要な3要素があると田中さんは言います。一つは「南相馬(杉並)」、2つ目は「子どもたち」、そして最も重要ななのがその子どもたちの「親」です。子どもたちが歌いたい、踊りたいといって勝手にトモプロに参加できません。また、親御さんが応援してくれるからこそプロジェクトは運営していけます。
歌いたい、踊りたいのは子どもたちですから、子どもたちがまずトモプロに参加したいと親に伝え、親もそれに応えようとします。でもここで引っかかってくるのが原発事故であり、田中さん同様それぞれの子どもを守ろうと考えます。ここで親御さん達は子どもの希望を叶え、同時に守るためにはどうすればいいかを考えます。その結果が南相馬のこと、原発事故のことについて知ろうとし、そして最善の方法を考えてくれるのです。
実際に南相馬に行くことだけは反対していた父親を3年かけて口説き落とし、ようやく母親とともに南相馬の公演に参加した子どもがいたそうです。南相馬のステージで輝く我が子の姿を目の当たりにした母親が今度は父親に伝えて、今では両親揃って全面的に応援してくれています。
田中さんはこのことからも、具体的な行動の積み重ねが人の心を動かしていくということを知りました。

倫理でも最も大事な「心」と具体的な行動である「実践」について、その人の持つ「大三角形」でわかりやすく教えてもらいました。
田中菜穂さん、ありがとうございました。