もともと会社勤めをしていた石川明彦講師は、26歳の時にお祖父様が病で倒れられたことから実家が経営していた幼稚園に入社することになりました。今から12年前のことです。

9年前から幼稚園で行なっている朝礼の見学を受け入れるようにしたそうですが、すぐに評判になり、年間80社もの見学者が訪れ、これまでで700社以上の企業が見学に来ました。

ただ単に朝礼を見学するだけでなく、朝礼の説明から質疑応答の時間まで設けて見学に訪れた方に学びの場を提供しているということです。

そんな中、石川講師はあることに気がつきました。それは見学に訪れる企業の方達の関心が朝礼そのものよりも「どのように導入したのか」という導入方法に強い関心があること、言い換えれば「組織の変革」に悩みを持った方が多いということでした。

振り返ってみれば、石川講師が勤めていた商社を退職して家族が経営する幼稚園に来た当初というのは大変な状況で、石川講師もこの幼稚園を、会社を変えるために朝礼を導入しました。

石川講師が幼稚園に来て1年半の間に9割の社員さんが辞めていきました。石川講師が幼稚園に来た当初の園内の様子は、あまりに一般の会社とはかけ離れたものでした。服装や身だしなみの乱れ、言葉遣いに至ってはほとんど敬語が出てこない、通園している子供達の親御さん、つまりお客様に対しても「タメ口」で話をする。

商社に勤めていた石川講師はそういった「社風」を変えようと努力をしますが、そこには当然反発が起こります。さらに、幼稚園の経営状態もかなり厳しい状況にあったために、石川講師が頑張れば頑張るほどついて来れない人が続出してしまいました。

また、取り巻く環境もそれに拍車をかけるような状況にありました。当時から幼稚園や保育園が乱立し、その職員、先生は「引く手数多」の状態になっていました。大卒の有資格者に対して70件ものオファーが来る、初任給は銀行よりも高いという「超売り手市場」になってきていました。多くのところが人手不足に陥り、同時にそれは人材育成をさらに難しいものにしていました。

危機的状況、さらに迫り来る脅威に対して石川講師はその立て直しと理想の幼稚園像を模索し始めました。全国の良いと言われる40ほどの幼稚園を回り、そこで働く方や経営を学び取ることにしました。

そこで出会った福岡の幼稚園からは夢やビジョンを持って運営することの大切さを学び、石川講師も夢やビジョンを園内で語ろうと考えました。

しかし、いきなり夢を語り出したことで受け入れられない職員さんが辞めていくきっかけにもなってしまいした。石川講師がその時学んだのが「夢を語る前に信頼の土壌が必要」ということでした。

そこで、まず何でも話し合える土壌、社風ならぬ「園風」にするために改革チームを作ることにし、4人を選抜しました。そのうちの一人は当時の職員の「ボス」的な存在であった女性でした。それだけに改革には必要な人物であったわけですが、当時は石川講師が夢を語っても受け入れてくれない状況を作っていたことも確かでした。まずはそのような関係性を改善するためにもお酒の飲めない石川講師が有名なビアガーデンに「視察」という名目で飲みに行くことにしました。そこに数ヶ月後には辞めることになっている「元」ボス的存在の女性も同席していました。その席で彼女たちはお酒が入ったこともあり色々なことを話し出しました。石川講師も初めて聴くこともあり、彼女たちの見方が変わりました。感情が昂ぶった彼女たちは泣きながら話をし、最後には一緒に改革に取り組むと言ってくれました。

彼女以外に課題を抱えた3人の女性を加えた4人で改革をスタートさせた石川講師ですが、最初に取り組んだことは、現在石川講師の幼稚園の朝礼見学に来る企業に伝えていることでした。

一つは「自分たちが良いと思う企業を見つけて”丸パクリ”すること」です。石川講師が言うには、社内改革に失敗する企業の多くは他の良いと言われる企業の「真似」をするわけですが、「良いとこ取り」をして失敗する。そういった企業が言うのは決まって「我が社に合ったところを取り入れる」ということで、言い換えればいきなりオリジナルなものを作ろうとするということでした。上手くいっていないから改革をしようとしているのに独自のものを作れるはずもなく、現在の社風の中に部分的に取り入れようとするのでいくらやってもほとんど変化しないということでした。

二つ目は「最初は社員全員ではなく一部の限られた人だけで取り組むこと」です。当事者意識の低い人が何人集まっても何も変わりません。それどころか、その中に変化を嫌がる人が含まれていると意図が歪んで伝わっていく可能性があります。ですから、改革は初めに4~5人の「少数精鋭」で取り組まなければいけないということでした。

三つ目は「段階的改革という日本語は無い」つまり一気に変えるから改革と言うのであり、そうでないと変わることはできません。そのために必要なのは、その選ばれた少数精鋭メンバーに対して思い切った権限移譲をしなければならないということでした。

四つ目は改革を意識するのでなく、実際に行動するための「やり場」とそれを周りから「見られる環境」を作ること。これは「朝礼甲子園」のような場とそこでの評価あるいは自分たちの取り組みを客観視できる環境を用意することで実際に行動することができる、行動しやすい場や環境を整えることが必要だと言うことでした。

五つ目は「ベテランの持つ負のエネルギーを活かす」ということ。社風を改善するために、それまでの社風を形成していたベテランを排除し、若手の新人だけで取り組んでも上手くはいきません。社風はその場にいる人の意思のエネルギーによって形成されているので、そのエネルギーを上手く活かさなければいけません。中でもベテランが若手に対して持っている負のエネルギーは大きく、それを活用すること、つまりベテランを上手く「巻き込む」ことが大切だということでした。

この五つのポイントをまとめると「憧れの職場を、仲間と素直に真似することから始めよう」ということだと石川講師は教えてくれました。

これからの日本の経済環境は良くなる要素が無く、少子高齢化によって悪化の一途を辿ることは間違いない。それは企業を支える人材の質にも影響を及ぼしてくることも明らかです。それは国の対策に限界があるからで、鍵を握るのはそれぞれの企業がそのことこに気づいて、長期的な視野に立って改革していけるかにあると石川講師は言います。

自社の改革を通して少しでも役に立てるのであれば、という思いからこれからも積極的に朝礼見学を多くの企業に勧めていきたいということでした。

【講師プロフィール】

城山幼稚園・城山みどり幼稚園鎮守の森城山どんぐり保育園 園長

渋谷区倫理法人会 会員

石川明彦

昭和56年10月24日、東京都板橋区生まれ。大学卒業後、商社勤務を経て、平成19年に実家が経営する幼稚園に就職。直後の22ヶ月で、職員の90%が退職するも、一気に立て直し、平成24、25、27、30年に東京都朝礼コンテストにて優勝。今も無敗記録を続けている。平成29年には、板橋区で最も働きやすい企業に送られる「いたばしgood balance会社賞」を受賞。平成30年8月には活力朝礼甲子園首都圏グランドチャンピオンを獲得。現在は、年間約150社が、全国から朝礼導入と組織づくりの見学に訪れる。